Scrap/Book2009.08.09 22:20
「母さんから妊娠のことを知らされた時、俺は咄嗟に相談したんだ」父がそう言ったことがある。
「相談って誰に」
「神様に」それから、苦い果物を噛み砕くような表情をした。「笑うだろ」
「神仰もないくせに?」
「神仰もないくせに。一瞬のことだったんだろうが、俺は空を見上げて質問をぶつけていたんだ。どうすることが正解なのか教えてくれとな。即席で、神に祈ったわけだ。ああいう時に頼れるのは、神様くらいだ」
「節操がない」
「必死だった」
「で、返事はあったわけ」
「あった。声が聞こえた」
あったのかよ、と私は笑う。
「思い違いかもしれないが、はっきりと聞こえたんだ」父が冗談を言うようでもなかった。「俺の頭の中に怒鳴り声が聞こえた」
「神様が怒鳴るとは。何と言ってきたわけ」
「『自分で考えろ!』」
「は?」
「『自分で考えろ!』ってな、そういう声がしたんだ」
私は噴き出した。「無責任にもほどがあるじゃないか」
「だがな、考えてみると、これは神様の在り方としては、なかなか正しい」
「そうかな」
「俺は即座に決断した。自分で考えたんだ」


Posted by Lynn*