雑想/夢物語2009.06.19 06:49

体が痺れる様に痛くて目を覚ました。見知らぬ部屋。ベッドに横たわって辺りを見渡す。小さい部屋を囲んでいる壁には幾つかの罅があった。窓の外は灰色に曇っていた。私は身を動かそうとするが、上手く動けない。それはきっと血が廻ってないからだと解る。何時もそうだったから。目を覚ました直後は体を思う侭に動けない。私は灰色の空を見つめながら多分今日も雨だろうと思う。

10分位経つとやっと体を動けるようになった。部屋の扉を開けて外に出ると長い灰色の廊下が左右に広がり続けていた。天井は高く、廊下の幅は結構広かった。廊下の壁はまるで鉄で出来ているように堅く冷たく見えた。どっちに行けば良いのだろうと迷っている内、此処には誰も居ないって事にやっと気が付く。

私は左に曲がり足を踏み出した。その瞬間、体のバランスを崩して倒れそうになったが幸い左手を壁に付けていた所為で倒れずに済んだ。何歩か踏み出して私は解った。この体は不自由なんだ、と。左足の膝の下はゼロだと言っても良い位、感覚がなかった。暫く歩いて行くと、其処には白い服を着たお年寄りの男の人が私と同じ歳に見える男と子二人と話をしていた。その白い服を着た人は私に気が付くと私に向けて手招いた。その白い服を着た人は結構厳しそうな表情を浮べていた。

どうやらその白い服の人は博士の様だ。何等かの研究がさっき終わったので私達に見せるって言った。その人について行きながら私は思った。

「此処は一体何所だろう」

廊下には窓もなくて日の光も差し込んでいない。何所にも時計やカレンダーも掛かってなくて時間と日日の感覚もまったく無い。唯、起きているって事で多分昼間だろうと思う。ひたすら長い灰色の廊下を歩いて何所かに向っている。

暫く歩くと廊下の先が見えてきた。気が付くと廊下の幅は結構狭くなっていた。廊下の先にあるその部屋には窓があった。窓の外は相変わらず灰色だった。結構濃い灰色だった。…夜みたいに暗かった。部屋の入り口には扉もなかった。周りは静かで、私の呼吸する音だけが大きく響いてるような気がした。部屋の左には水槽みたいなモノがあって、それは苔色の液体に満ちていた。部屋の中には博士と同じく白い服を着た人たちが4、5人くらい居た。ピ、ピ、と機械音が鳴ってて、パソコンが唸る音も聞こえた。私の右側にある真っ白な壁には眩しく輝く巨大な何かが映っていた。それは、ゆっくりと波を打つように動いてた。真っ白だったが、薄い紅色や緑色も混ぜていて、まるで星雲の様に思えた。博士はそれをじっと眺めてる私に気が付き、それは「太陽の光」を圧縮して映しているのだと言う。地球にはもう太陽の光が届かないから宇宙から太陽の光を集めて、此処に伝送してくれるんだと言う。その「太陽の光」は凄く綺麗だった。それを眺めていると時間が停止しているように思われた。

博士は私達を或る機械の前に呼んでから面白い事を言った。簡単に言うと、今の地球は直ぐ滅びてしまうかも知れないって事だった。人類は戦争を繰り返して何度かの原爆の所為でもう地球に太陽の光は差し込まなくなっていたと言った。相次ぐ戦争の中でも勝つ為に科学者達や技術者達は研究を重ねて科学と技術は戦前時代より遥かに発展していると言った。そしてこの戦争も直ぐ終わらせないといけないと言った。最早地球は人間の住めるような所ではなく、廃墟になってしまったがこの戦争が終わらないとこの研究の成果も無駄になってしまうと言った。人類が滅びてしまうと言った。宇宙で住めるのも限界があると言った。直ぐ戦争を終えたらあと200年経つと地球は、快適ではないが人間の住めるような所になると言った。その為に、戦争を終わらせる為に色んな研究を重ねてきたと言った。もっと強力なミサイルの製造研究、もっと効果的な破壊方、もっと効率的な殺し方。

そして、人間兵器の研究。

機械と人間の神経を直接に繋げて人間の意思だけで機械を操れる様に研究をしていたと言う。今やっとその研究を果たした、と言う。でも未だ実戦には使われてないと言う。それは未だ実際に人間が機械を操るテストをやってないからと言う。私と他の男の子二人が今此処に居るのは、私達の足が不自由だからと言う。上手く歩きたいでしょ、また走りたいでしょ、と言う。私達の研究を実際試してみないかと言う。上手く行ったらまた歩けるよ、また走れるよ、と言う。やっとあの博士の言う事が解った私は苦笑する。

ああ、そうなんだ。
私は実験体なんだ。
上手く行ったら戦場に送られるんだ。
走りながら人を殺しまくる兵器になるんだ。

でも、選択の余地なんかある筈が無い。私達は機械とのシンクロを試す。堅い椅子に体を委ねる様に座っていると、研究員が手首や足や首筋に何か良く解らない物を付ける。心臓が高鳴るのが解る。こめかみの近くで脈が酷く強く打ってるのが解る。背中に冷や汗が走るのが解る。

目を閉じて、暗闇に自分を浮べて思い出せるんだ。
「歩く」感覚を。
一歩一歩踏み出すその感覚を。
自由に歩くその感覚を。

…みたいな事を言われる。目を閉じて私は底の無い闇に堕ちて行く様な感覚に囚われる。怖い。怖い。目を覚ましたい。怖い。怖い。歩けない。心臓が暴れだすのが解る。こめかみが爆発しそうになる。吐き気がする。怖い。怖い。怖い。

「目を開けても良い。あんた達全部失格だな。ちっとも動けないのか。失望した。また歩きたくないのか?走りたくないのか?あんた達、望んで此処に入ってきたのじゃなかったのか?明日、またやるから今日はもう帰って良い。」

瞼を開くと白い服を着た博士が一層顔を固めて睨み付ける様に私達を見つめているのが解った。恐怖が私を襲ってきた。自分の体の障害を克服せず、体の中に閉じこまれてしまった「自由な想像力」を酷く叱られ、「期待以下」だと言われた瞬間、物凄い恐怖が津波の様に私を襲ってきた。

「廃棄されるかも知れない」
と言う不安。

頭の中が真っ白になって、吐き気は足の下から波の様に脳に向って上がってきた。一瞬目の前が眩む、と思ったら私は「お願い!私はもうちょっと生きていたい!生きたいよ!!!」と叫んでいた。ハラハラと涙が後から零れて来た。私は棄てられたくない、と絶体絶命に願っていた。

左足が凄く痺れていて立っている事自体が体と精神に凄い負担を掛けていた。

「生きたいよ」

と呟きながらふらつく私の目の前が真っ暗になった。
Posted by Lynn*